道路も空いていて、本当に「早起きは3文の得」なんだな。
薄明り中を向かっていると、やけに空が曇っていることに気づいた。
さらに進むと、それは雲ではなく、霧だった。
途中の盆地にときどき雲海が出ることは、子供の頃から知っていた。
峠から見下ろす雲海に包まれた平野は神秘的だった。
僕はシャッターを切りながら車を走らせた。
トリシアに久々に綺麗な写真が送れると思ったからだ。
平野よりも少し上った場所の方がより霧が濃く、それをさらに上ると霧を抜けた。
残念ながらスポットが見つからず、よい写真は撮れなかった。
僕の畑はもう一段上の盆地にあった。
ひょっとすると・・・と思い、先を急いだ。
ここも霧に包まれていた。
神社の辺りは、ひんやりとした朝靄(あさもや)と光のヴェールに覆われていた。
田んぼの稲穂がビロードに波打っていた。
朝露に濡れた草を刈るのはまったく馬鹿なことだったが、それでもとてもよい朝だった。
犬を散歩しているノリおじさんの奥さんに出会った。
母親を亡くしたばかりの彼女に、僕は挨拶をしたが、お悔やみの言葉を出すことができなかった。
少しトリシアに似ていることを感じて、ニュートラルな思考が頭をめぐった。
・・・