大陸からの風に冷たさが差すようになった。
空が抜けて、隠れる場所がない。
蒔いた種はすぐに芽を出し、つぎつぎと生えてくる雑草を抜いてまわる作業に追われた。
(もちろん畑の真ん中(6m×10m)には手を付けていない。)
こつこつと畑に通う様子を見て、ノリおじさんが声をかけてきた。
「山でやってみるか?」
雨上がりの空に虹があらわれた。
“森のような畑”・・・そんなものが本当にあるのか?
野菜やフルーツはどのように混生し、あるいは混生しないのか?
子供のころ、川で釣った魚を食べたときのことを思い出した。
ピチピチと跳ねていた魚が、死んで焼けゆく様子。
白くなる瞳。こげ立つ香り。口の中に広がる肉の味。
いま思えば、自分一人で行った小さな儀式のようだった。
生きるということが、何も語ることなく、少年をつつんだ。
そのときの魚の味は、想像していたものと少し違っていた。
先入観の誤差(エラー)・・・千の言葉よりも無言の抱擁(ほうよう)を。
それにしても、ノリおじさんは、僕が「果樹を植えたい・・・」とこぼしていたのを、気に留めていてくれたのだろうか?
あるいはただ、「畑に木を植えられてはかなわない」と思ったのか?
いずれにせよ、雑木林では“キホーテな実験”がはじまった。
・・・