2010年05月31日

フマール農園 41. ギルガメシュ叙事詩

5月。
人気アイドルが公然猥褻で逮捕された、という事件が世間を賑わしていた。
マルックは「今の日本の社会には寛容さがない」と言った。
僕は「森がないからだ」と思いながら聞いていた。
おかしな話だと思うかも知れない。
だけど、たとえば・・・
未知で奥深く、ハレンチで癒しと危険に満ち、活力にあふれるもの
夜にはドウドウと騒ぎ、昼間はまぶしく輝く
そんな存在が身近にあれば、人々はどんなに解放感を味わうことができるだろう。
だって、怒る気にもならないでしょ、後がこんなだったら。
C20090409虫2.JPG

・・・
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2010年06月30日

フマール農園 42. この道

C20090618畑.JPG C20090609雑草2.JPG
6月。
フマールの心は、湖底に沈む寺のようだった。
山も畑も当たり前のように柵が破られ、獣たちのレストランになっている。
(ひょっとすると去年よりも悪いかもしれない・・・)
日ごとに生い茂る畑では、赤と白のクローバーが満開だ。
一粒だけのイチゴ、虫に食べられたブロッコリーなど・・・まともに育つ野菜はない。
C20090609イチゴ1.JPG C20090625ブロッコリ.JPG
それでも足を運ぶのは、なにかしら小さな気付きがあるからだ。
植物たちはピークを少しずつずらして咲く。
アワダチソウやヨモギだけが他を征圧してしまうことはない。

麦を収穫した。弥生時代をまねて穂先だけを摘んだ。
手を掛ける気になれず、ぜんぶ来年の種籾に回すことにした。

C20090618山.JPG C20090618玉ウサギの下2.JPG
山ではクローバーが生え始めた。

C20080611この道.JPG
この道・・・先は見えない。

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2010年07月25日

フマール農園 43. 広島を

C20090713畑.JPG
7月。
ひとり畑へ。
土手の草を刈った。小さなソバの花が咲いていた。
C20090706ソバの花.JPG C20090706おばさんの畑1.JPG
(去年と変わらないな)
となりのおばさんの畑を見るにつけ、僕は不安になる。
(普通のやり方でやればいいんじゃないか?)
コオロギとヘビが草の中にスルスルと消えていった。
土は1センチだけど黒々とよい感じになっている。
C20090706夏の雲.JPG C20090706天然のマルチ.JPG
(僕はこのまま種を蒔きつづけることができるだろうか?)
昨年と変わらない迷路をさまよう。
迷路も1度目よりも2度目がきつい。
(僕の方こそシンプルな予定調和を期待しているのかも知れない)
今回は山芋とミョウガとトマトしかできそうにない。

夜、川べりでビールを飲みながらマルックと話をした。
僕はこのとき初めて、チェ・ゲバラが広島に来たことを知った。
チェは「死んだように生きろ」と言ったという。
チェ・ゲバラ.jpg
僕はこんな小さなことをなんでウジウジ考えているのかと思った。
世界には問題が山積みで、そんな下を向いて休んでいる暇などない。
この道を歩きだした。
行く手にどんな困難があろうとも、たじろいでいる暇はない。
マルックは僕がただの変人で終わってしまうことを心配している。
そうかも知れない。
しかし、一見無意味に思えるこの回り道を、必要なものだったと、後から笑って話せるように。

「これからは広島を、広島の人を、愛していこう」
1959.07.25 エルネスト・ラファエル・ゲバラ・デ・ラ・セルナ

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2010年07月31日

フマール農園 44. 夏休み。。。

C20090727畑.JPG C20090727山.JPG
7月。
いつものようにほったらかし畑の中を見て回った。
突然、草かげから茶色いものが飛び出した。
一気に小高い土手まで逃げていったその姿は、今まで見たことのないものだった。
ウサギ!?・・・は、律儀に柵の手前で一度こちらを振りかえり、森へ跳ねていった。
僕はこの時はじめて野生のウサギを見た。
柵は穴だらけでも、心はうずうずしていた。もうコツコツやるしかない。

半月ぶりに訪れた畑は、よく見ると、カボチャやズッキーニの苗が少し大きくなっていた。
C20090727カボチャ.JPG C20090727サツマイモ1.JPG C20090727ズッキーニ.JPG

帰りの車から流れる、ペンギンの『夏休み。。。』

海水浴で、好きな娘と1つの浮き輪につかまって、沖に出る。
夏のまぶしい陽ざし。視界には海面と彼女の姿しか見えない。
すぐ目の前で、息づかいまで聞こえるほど近くで、笑う彼女。
水しぶきと海の鼓動。

一瞬の永遠。
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2010年08月31日

フマール農園 45. 淡々とプチトマト

C20090820畑.JPG C20090820山.JPG
8月。
近所では夏野菜の収穫がはじまった。
カボチャ、サツマイモ、スイカの葉が、花見の場所取りゴザのように一面をおおっている。
C20090811おばさんのサツマイモ.JPG C20090802夏の夕1.JPG

フマール農園でも、遅ればせながらトマト、カボチャ、ズッキーニが大きくなってきた。
当初くすぶっていた苗も、一線を越えるとすごいスピードで成長をはじめた。
(苗から植えると違うなぁ・・・邪道な気もするけど)
ちなみに、去年のキュウリは、さらに1ヶ月スロースタートして、秋に抱かれるように夭折した。
夏野菜は小さい時が肝心みたいだ。
C20090828カボチャ3.JPG C20090828ズッキーニ2.JPG

一応の報告として、
C20090805ネギ1.JPG C20090802トウモロコシ.JPG C20090820サツマイモとキュウリ.JPG
C20090828山芋2.JPG C20090828みょうが.JPG C20090828ソバの花.JPG
・ネギ(種)は、雑草の影でみずみずしく育った。
・トウモロコシ(苗)は、去年と同じように枯れた。
・唐辛子(苗)は、どこにあるかわからない。
・サツマイモ(蔓)は、雑草。
・キュウリ(苗)は、遅いがクローバーの中で成長している。
・サトイモ(種芋)は、枯れることはないが大きくならない。
・みょうが(種)は、雑草。
・ソバは、実生(みしょう)のサイクルに入っている。

C20090828プチトマト2.JPG
なにより8月の最後にプチトマトができたのがうれしい。
大好きなんだよな、これ。
去年よりだいぶんいいみたい。

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2010年09月30日

フマール農園 46. はじめての収穫

C20090915畑草刈後.JPG C20090915山草刈後.JPG
9月。
ドンっ
フマールはいっぱしの百姓のように、野菜をぞんざいにトランクに積んだ。

C20090915収穫1.JPG C20090918収穫1.JPG
夏の終わりの思わぬプレゼント。
カボチャやプチトマトは次々と実を太らせ、行くたびに食べるだけ持って帰ることができた。
3年もつづく雑草園に疲れた心に、収穫はライスシャワーのように心地よかった。

C20090924DNA.JPG
フマールはライスシャワーを浴びたことはない。

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2010年10月31日

フマール農園 47. The old man is ambitious.

C20091017畑.JPG C20091017山.JPG
10月。
台風が関西を抜けていった。
お座なりにしていることをやろうと思い立ち、朝からシーツを洗ったり、書棚を整理したりした。
それから車で銀行に向かう途中、近所のガードレールに車体の横っ面をひどく擦った。
別に危険な運転ではなく、まったく当たるとも、危ないとも思わなかった。
(最近どうかしてるのかな?集中力がない・・・)
嫌な嫌な気分はぬぐっても取れなかった。

牧場でヒデじいさんが草を刈っていたので、すこし立ち話をした。
「体がえらい。体がえらい」とぼやきながらヒデじいさんは近づいてきた。
先日フマールの知り合いを名乗る者が「牛の肥が欲しい」と交渉に来たこと。
その若者はプロとしてキノコ栽培をするつもりらしいこと。
他にも、牧草地にヤマノモノが入った話などをした。

別れ際、ヒデじいさんは大きく一つ言い放った。
「若い者は夢を追え!それから早う結婚せい!心が折り合うけぇ」
もう80歳近いヒデじいさんから発せられた「夢を追え」という言葉は、清々しく響いた。
トラック運転手から酪農家になったヒデじいさんは、生き生きとして、お肌もつやつや。
すくんだ肩の小さな背中には、力がギュッと詰まっている。

C20091017収穫1.JPG C20091027白菜2.JPG
朝晩の寒さにもプチトマトは相変わらず生り、無理と思われた普通トマトは赤く色づいた。
そうこうしているうち、畑にノリおじさんがやって来た。
すれ違いざま、フマールの抱えた野菜を横目にニヤリと笑った。

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2010年11月30日

フマール農園 48. 紅く色づくのは

11月。
数日前から寒くなり、県北では雪が降った。
こんな時期にトマトができることにびっくりした。
太陽の光の届かないまったくの草陰で、トマトは赤く色づいていた。
C20091109トマト2.JPG

衣替えをする山の木々。

久々に訪ねてくれた旧友をもてなすため、僕はサツマイモを掘った。
ほったらかし畑のトグロを巻いたサツマイモは、白い汁を出していた。
「一番大きいこれを上げるよ」
「うぅん・・・いいのか?」と苦笑いの友人。
C20091105サツマイモ3.JPG C20091109収穫1.JPG
とうがらしや冬瓜なども収穫して、最後の喜びを受け止める。

C20091119秋の夕暮れ.JPG
秋にできなければ、これから先できないだろう。
願いは思いのほか受け止められた。
紅く色づくのは、わが身が光を浴びたからではないと思った。
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2010年12月31日

フマール農園 49. MJ

C20091208畑.JPG
12月。
小雪のちらつく中、ひとり畑で鍬(くわ)を打つ・・・

そうしょったら、頭ん中じゃ、ぜんぜん関係ないことを考え始めるんよ。
クリスマスの贈り物は何がええかのぅ?とか、まぁだいたいは他人に言えんようなことばっかりよ。
ほいじゃけど不思議なんは、はじめはブチたいぎゅうて体がえらいんじゃけど、心の疲れがほんま抜けるけぇ。
山登りする人も同じなんじゃないか、思うよ。

C20091208白菜.JPG
ブロッコリーと白菜は、去年よりも発育がええよ。

もちろん、わしがマイケル・ジャクソンじゃったら、ブルドーザーと派遣社員で一気にやるよ。
もし、わしがマイケルじゃったら、小鳥がチュンチュンと鳴いとっても、気にせんと種を蒔くよ。
わしがマイケル・ジャクソンじゃったら・・・わしがマイケル・ジャクソン・・・
わしがマイケル・ジャクソンじゃ!アーゥ!
C20100107マイケル・ジャクソンS.jpg

どうぞ、みなさま良いお年を m( J )m  I love Michael.  M.K.フマール
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2011年01月31日

フマール農園 50. 初詣

C20100113畑.JPG C20100107ブロッコリーと白菜.JPG
1月。
いつもは友人たちと集まる大晦日も、今年は誰言うとなく各々過ごすことになった。
新年をパリッと迎えたくて行くのか初詣。
僕はひとり畑に行こうと決めていた。

C20100129秋のような春空.JPG
ところが、マルックも同じことを考えてくれていた。
むろん一人より二人の方が楽しいに決まっていた。

大晦日にうち寄せた寒波は、中国山地から瀬戸内海にかけて、たっぷりと雪を落とした。
フマール農園はふわふわの白い毛布に一面おおわれた。
遠い記憶の中から、新美南吉のキタキツネの童話を思い出した。
「トナカイが出てきそうだ」
C20100101畑遠景.JPG C20100101森の入口.JPG
ほの暗い雪原を冷たい風が水平に斬っていた。
世界は美しく、僕はしきりにシャッターを切った。
トリシアにいい写真を送りたかったから。
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2011年02月28日

フマール農園 51. 2QQQ

C20090126畑.JPG C20090209畑.JPG C20090318畑.JPG C20090416畑.JPG C20090504畑1.JPG C20090618畑.JPG C20090713畑.JPG C20090820畑.JPG C20090915畑草刈後.JPG C20091017畑.JPG C20091105畑.JPG C20091208畑.JPG
2月。
このQQQがやりたくて始めたのに、一年を振り返るのを忘れていた。

所感としては、いけそうな気がしている。
おぼろげに思う。

・幼芽から15センチくらいの本葉になれば、あとは草ボーボーでも野菜は育つ。
・土が肥えていないと実が入らない。
・放ったらかしにすると、時間はかかるが、土が肥える。
・きちんと畝を立てないと収穫がむずかしい。

C20100222畑.JPG C20100222山芋.JPG C20100203白菜とブロッコリー.JPG
畝を作り直していると、よく取りこぼした山芋が顔を出す。
真綿色したシャキシャキの実が、疲れを知らない子供のように輝く。
春が立ち、今年は節分に種蒔きをしてみた。
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2011年03月31日

フマール農園 52. 春うらら

C20100318畑.JPG C20100318混生2.JPG
3月。
地の生気を吸った空は、わがままな少女のように天気雨を降らせた。

C20100325天気雨2.JPG
回りはじめた春のうねりが、みんなを違う場所へ運んでしまった。
キコリザワはガラス細工の職人と結婚して、「航海に出る」と言い残して去っていった。
フマールは目くるめく小旅行に出かけ、意識が吸収されてボウフラになった。

寝ぼけ眼で起きあがり、顔を洗い、パンを焼き、ミルクをコップに注ぐように・・・
畑にただ種だけが蒔かれていた。
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2011年04月30日

フマール農園 53. バランス

4月。
C20100414桃の花2.JPG C20100414畑.JPG
山に植えた桃が花を咲かせていた。
花も果実もおいしい「桃」という木。

畝をつくり直すと、畑は耕された状態に戻ってしまう。
希望はまったく抱いていない。
おかげで「一喜一憂せず、ただ種を蒔く」ということを実践しつつある。
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2011年05月31日

フマール農園 54. フマーリン、ヒラメキン

5月。
「何もしなくてもいいの?」
フマールは思ったのでした。
夜の森はドウドウと騒いでいました。
そうなるともう居ても立ってもいられません。
フマールは月夜の原っぱに駆け出しました。
後ろから追いかけてきたマルックは、ピーナッツ入りチョコレートをぽりぽりと頬張っていました。
「ぼくたちは旅に出るんだね」
「ホーブホ※※二 ヒクンダオ」
マルックの声はよく聞こえませんでしたが、甘い香りが風に流れるのでした。

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2011年06月30日

フマール農園 55. 蓬(よもぎ)で気づいたこと

6月。
トリシアに「今から出掛けるつもり」と言ってしまった手前、唸(うな)りつつ畑へ出向く。

経験上、土を耕した年は、手が付けられないくらいに草がボウボウになる。
根で繁殖するタイプのヨモギやセイタカアワダチソウなどを中心にして。
これを早くリセットしたい、かつ苗が呑まれるを防ぎたいと考え、ヨモギを引っこ抜くことにした。

C20100629畝の草抜き.JPG C20100621ブロッコリー.JPG
茎を持ち上げると、土やらミミズやらがごっそり付いてきて、耕したような状態になってゆく。
「これじゃ本末転倒じゃないか・・・」と、後になって気づいた。
ヨモギの影ではブロッコリーやキャベツの苗が大きくなっていた。

C20100708ブロッコリー.JPG
しばらく経って、また行くと。
ブロッコリーもキャベツも干からびて、虫に食べ尽くされていた。

C20100614スナックエンドウ5.JPG C20100614イチゴ1.JPG
それを見てわかったんだ。雑草の中でも育つ野菜はちゃんと育つ。
過剰な日差しを遮り、あるいは蔓を巻きつける誘導樹になったりする。

とりあえず、雑草も苗と同じくらいの高さに刈る程度でいいんじゃないかと思った。
・・・
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2011年07月31日

マルックの喫茶店 1. マルックと秘密の部屋「ブルーベリー園へ」

ラジオから流れてくる野球中継は、なんだか両チ―ムともパリッとしない、そんなゲームだった。
近ごろの僕とフマールの毎日もだいたい似たようなもので、夏の猛暑も相まってか、のんべんだらりとしていてまるで覇気がない。
「ここで一発ホ―ムランを!」と大声でうそぶいてみても、やっぱり虚しいだけだった。
諦めていた。自分たちの毎日がそんなに簡単に変わるわけがないと・・・

今日僕たちは珍しく朝から車を走らせていた。山を目指して。
といっても山登りをするわけではなく、その麓の農村でブルーベリーの収穫の手伝いをするためだった。
途中窓を開け、緑の中、朝の新鮮な空気を鼻いっぱいに吸い込むと、僕は幸せな気持ちになった。
隣の相棒は鼻歌なんて歌っている。どうやらフマールも同じらしい。

車は山道をぐんぐん駆け上がり、峠にさしかかろうとしていた。
その時だった。
一瞬僕の目に信じられないものが飛び込んできて、「あっ」という声が出たかと思うと、ハンドルを右へ切っていた。
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2011年08月31日

マルックの喫茶店 2. マルックと秘密の部屋「こっそり堂」

「し、信じられない…」
「マジかよ…」

僕たちはほとんど同時に声を上げた。
まったくこの時のテンションの上がり様ったらない。

それは確かに目の前にあった。

「…こっそり堂、だ」
フマールが呻(うめ)く。

その後の出来事は正直思い出せない。いや、思い出したくない。
ただただ夢中だった。僕もフマールも…

気が付けばフマールがカメラのファインダーを覗き込んで、必死になって僕にポ−ズを強要していた。
僕も満面の笑みで次々にポーズを決めてゆく。
C20110731こっそり堂2.jpg

僕の体は熱を帯び、興奮を抑えるのがやっとだった。
ただ渾身の数枚を撮れた充足感だけが、わずかばかり僕を鎮めた。

邂逅(かいこう)と呼ぶべきその体験は、僕たちを一変させた。
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2011年09月30日

マルックの喫茶店 3. マルックと秘密の部屋「到着」

何だろう…この感覚… 
動揺を隠せない。この高揚感。

「僕じゃないみたいだ・・・」
確かめるように呟いていた。

結局ブルーベリー園に着くまで運転に集中することができなかった。
フマールが興奮気味に何か話しかけてきたけれど、まるで覚えていない。
僕は「自分」という住み慣れた家に完全に引きこもっていた。

エンジンを切る。
意識が深淵に沈みかけたその時・・・突然フマールが歓喜の声をあげた。
「見てよ!ブルーベリーがたくさんなってる!」
僕は弾かれるように外を見た。

その時見た風景を、僕は一生忘れないだろう。

一つ気付いたことがある。
僕が変われば、風景も変わるってことだ。
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2011年10月31日

マルックの喫茶店 4. マルックと秘密の部屋「夏搾り」

目の前に広がる散りばめられた無数の青い実を、僕はなぜだかとても愛おしい気持ちで眺めていた。
C20120804夏搾り.JPG

そんな僕の気持ちをよそに、フマールは青い実を口いっぱいに頬ばっている。
「今年の実は大きくって、甘酸っぱくって、とにかく最高!」
のんきなフマールがうらやましい・・・

僕も一粒口へと運ぶ。
「ほんとだ、美味しい」
夏をぎゆっと搾ったら、きっとこんな味がするんだろう。

目の冴えるような青空に、白い雲が浮かんでいた。
・・・
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2011年11月30日

フマール農園 56. 畑バカ30代

11月。
マルックと畑へ向かう車の中で、「40歳は重いよなぁ」という話をした。
こんなバカな30代は・・・と思った瞬間、世界のナベアツの「3の付く数字と3の倍数でバカになります」のネタを思い出した。
「サァーンジュウ、サァーンジュイチ・・・」とマネをして、最後は重々しい声で「40」と決めた。ふたりは大笑いして、「ほんとに40はドヤ顔で決めたいな」と肩を叩いた。

マルックはヤル気になっていた。本来なら昼ごはんで帰るつもりだったが予定変更だ。
大雑把なマルックに対して、僕は何度も作業のやり方に注文を出した。こういうときの精神状態はあまり良いものではない。
3時半くらいまで作業をして、手のマメがつぶれて、肩もくたびれて帰ることにした。

その車の中で、僕はマルックの話に耳を傾けることになる。

マルックは「心地よい疲れだ」と言った。
夕陽が眩しかった。
「なんかこれまで生きてきたことを思い出さないか?」
「例えば?」
「学生時代のこととか、結婚したときのこととか・・・生きてるっていいな」
僕は小言を言っていたこともあり、少し気分を害しているのではないかと心配していた。
ところが、マルックはただ「気持ちいいホルモンが出て、世界が美しく見える」と言った。

夕陽が稲の刈られた田園を薄緑とも薄黄ともつかない仏色に染めていた。
・・・
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