2011年07月31日

マルックの喫茶店 1. マルックと秘密の部屋「ブルーベリー園へ」

ラジオから流れてくる野球中継は、なんだか両チ―ムともパリッとしない、そんなゲームだった。
近ごろの僕とフマールの毎日もだいたい似たようなもので、夏の猛暑も相まってか、のんべんだらりとしていてまるで覇気がない。
「ここで一発ホ―ムランを!」と大声でうそぶいてみても、やっぱり虚しいだけだった。
諦めていた。自分たちの毎日がそんなに簡単に変わるわけがないと・・・

今日僕たちは珍しく朝から車を走らせていた。山を目指して。
といっても山登りをするわけではなく、その麓の農村でブルーベリーの収穫の手伝いをするためだった。
途中窓を開け、緑の中、朝の新鮮な空気を鼻いっぱいに吸い込むと、僕は幸せな気持ちになった。
隣の相棒は鼻歌なんて歌っている。どうやらフマールも同じらしい。

車は山道をぐんぐん駆け上がり、峠にさしかかろうとしていた。
その時だった。
一瞬僕の目に信じられないものが飛び込んできて、「あっ」という声が出たかと思うと、ハンドルを右へ切っていた。
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2011年06月30日

フマール農園 55. 蓬(よもぎ)で気づいたこと

6月。
トリシアに「今から出掛けるつもり」と言ってしまった手前、唸(うな)りつつ畑へ出向く。

経験上、土を耕した年は、手が付けられないくらいに草がボウボウになる。
根で繁殖するタイプのヨモギやセイタカアワダチソウなどを中心にして。
これを早くリセットしたい、かつ苗が呑まれるを防ぎたいと考え、ヨモギを引っこ抜くことにした。

C20100629畝の草抜き.JPG C20100621ブロッコリー.JPG
茎を持ち上げると、土やらミミズやらがごっそり付いてきて、耕したような状態になってゆく。
「これじゃ本末転倒じゃないか・・・」と、後になって気づいた。
ヨモギの影ではブロッコリーやキャベツの苗が大きくなっていた。

C20100708ブロッコリー.JPG
しばらく経って、また行くと。
ブロッコリーもキャベツも干からびて、虫に食べ尽くされていた。

C20100614スナックエンドウ5.JPG C20100614イチゴ1.JPG
それを見てわかったんだ。雑草の中でも育つ野菜はちゃんと育つ。
過剰な日差しを遮り、あるいは蔓を巻きつける誘導樹になったりする。

とりあえず、雑草も苗と同じくらいの高さに刈る程度でいいんじゃないかと思った。
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2011年05月31日

フマール農園 54. フマーリン、ヒラメキン

5月。
「何もしなくてもいいの?」
フマールは思ったのでした。
夜の森はドウドウと騒いでいました。
そうなるともう居ても立ってもいられません。
フマールは月夜の原っぱに駆け出しました。
後ろから追いかけてきたマルックは、ピーナッツ入りチョコレートをぽりぽりと頬張っていました。
「ぼくたちは旅に出るんだね」
「ホーブホ※※二 ヒクンダオ」
マルックの声はよく聞こえませんでしたが、甘い香りが風に流れるのでした。

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2011年04月30日

フマール農園 53. バランス

4月。
C20100414桃の花2.JPG C20100414畑.JPG
山に植えた桃が花を咲かせていた。
花も果実もおいしい「桃」という木。

畝をつくり直すと、畑は耕された状態に戻ってしまう。
希望はまったく抱いていない。
おかげで「一喜一憂せず、ただ種を蒔く」ということを実践しつつある。
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2011年03月31日

フマール農園 52. 春うらら

C20100318畑.JPG C20100318混生2.JPG
3月。
地の生気を吸った空は、わがままな少女のように天気雨を降らせた。

C20100325天気雨2.JPG
回りはじめた春のうねりが、みんなを違う場所へ運んでしまった。
キコリザワはガラス細工の職人と結婚して、「航海に出る」と言い残して去っていった。
フマールは目くるめく小旅行に出かけ、意識が吸収されてボウフラになった。

寝ぼけ眼で起きあがり、顔を洗い、パンを焼き、ミルクをコップに注ぐように・・・
畑にただ種だけが蒔かれていた。
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2011年02月28日

フマール農園 51. 2QQQ

C20090126畑.JPG C20090209畑.JPG C20090318畑.JPG C20090416畑.JPG C20090504畑1.JPG C20090618畑.JPG C20090713畑.JPG C20090820畑.JPG C20090915畑草刈後.JPG C20091017畑.JPG C20091105畑.JPG C20091208畑.JPG
2月。
このQQQがやりたくて始めたのに、一年を振り返るのを忘れていた。

所感としては、いけそうな気がしている。
おぼろげに思う。

・幼芽から15センチくらいの本葉になれば、あとは草ボーボーでも野菜は育つ。
・土が肥えていないと実が入らない。
・放ったらかしにすると、時間はかかるが、土が肥える。
・きちんと畝を立てないと収穫がむずかしい。

C20100222畑.JPG C20100222山芋.JPG C20100203白菜とブロッコリー.JPG
畝を作り直していると、よく取りこぼした山芋が顔を出す。
真綿色したシャキシャキの実が、疲れを知らない子供のように輝く。
春が立ち、今年は節分に種蒔きをしてみた。
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2011年01月31日

フマール農園 50. 初詣

C20100113畑.JPG C20100107ブロッコリーと白菜.JPG
1月。
いつもは友人たちと集まる大晦日も、今年は誰言うとなく各々過ごすことになった。
新年をパリッと迎えたくて行くのか初詣。
僕はひとり畑に行こうと決めていた。

C20100129秋のような春空.JPG
ところが、マルックも同じことを考えてくれていた。
むろん一人より二人の方が楽しいに決まっていた。

大晦日にうち寄せた寒波は、中国山地から瀬戸内海にかけて、たっぷりと雪を落とした。
フマール農園はふわふわの白い毛布に一面おおわれた。
遠い記憶の中から、新美南吉のキタキツネの童話を思い出した。
「トナカイが出てきそうだ」
C20100101畑遠景.JPG C20100101森の入口.JPG
ほの暗い雪原を冷たい風が水平に斬っていた。
世界は美しく、僕はしきりにシャッターを切った。
トリシアにいい写真を送りたかったから。
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2010年12月31日

フマール農園 49. MJ

C20091208畑.JPG
12月。
小雪のちらつく中、ひとり畑で鍬(くわ)を打つ・・・

そうしょったら、頭ん中じゃ、ぜんぜん関係ないことを考え始めるんよ。
クリスマスの贈り物は何がええかのぅ?とか、まぁだいたいは他人に言えんようなことばっかりよ。
ほいじゃけど不思議なんは、はじめはブチたいぎゅうて体がえらいんじゃけど、心の疲れがほんま抜けるけぇ。
山登りする人も同じなんじゃないか、思うよ。

C20091208白菜.JPG
ブロッコリーと白菜は、去年よりも発育がええよ。

もちろん、わしがマイケル・ジャクソンじゃったら、ブルドーザーと派遣社員で一気にやるよ。
もし、わしがマイケルじゃったら、小鳥がチュンチュンと鳴いとっても、気にせんと種を蒔くよ。
わしがマイケル・ジャクソンじゃったら・・・わしがマイケル・ジャクソン・・・
わしがマイケル・ジャクソンじゃ!アーゥ!
C20100107マイケル・ジャクソンS.jpg

どうぞ、みなさま良いお年を m( J )m  I love Michael.  M.K.フマール
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2010年11月30日

フマール農園 48. 紅く色づくのは

11月。
数日前から寒くなり、県北では雪が降った。
こんな時期にトマトができることにびっくりした。
太陽の光の届かないまったくの草陰で、トマトは赤く色づいていた。
C20091109トマト2.JPG

衣替えをする山の木々。

久々に訪ねてくれた旧友をもてなすため、僕はサツマイモを掘った。
ほったらかし畑のトグロを巻いたサツマイモは、白い汁を出していた。
「一番大きいこれを上げるよ」
「うぅん・・・いいのか?」と苦笑いの友人。
C20091105サツマイモ3.JPG C20091109収穫1.JPG
とうがらしや冬瓜なども収穫して、最後の喜びを受け止める。

C20091119秋の夕暮れ.JPG
秋にできなければ、これから先できないだろう。
願いは思いのほか受け止められた。
紅く色づくのは、わが身が光を浴びたからではないと思った。
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2010年10月31日

フマール農園 47. The old man is ambitious.

C20091017畑.JPG C20091017山.JPG
10月。
台風が関西を抜けていった。
お座なりにしていることをやろうと思い立ち、朝からシーツを洗ったり、書棚を整理したりした。
それから車で銀行に向かう途中、近所のガードレールに車体の横っ面をひどく擦った。
別に危険な運転ではなく、まったく当たるとも、危ないとも思わなかった。
(最近どうかしてるのかな?集中力がない・・・)
嫌な嫌な気分はぬぐっても取れなかった。

牧場でヒデじいさんが草を刈っていたので、すこし立ち話をした。
「体がえらい。体がえらい」とぼやきながらヒデじいさんは近づいてきた。
先日フマールの知り合いを名乗る者が「牛の肥が欲しい」と交渉に来たこと。
その若者はプロとしてキノコ栽培をするつもりらしいこと。
他にも、牧草地にヤマノモノが入った話などをした。

別れ際、ヒデじいさんは大きく一つ言い放った。
「若い者は夢を追え!それから早う結婚せい!心が折り合うけぇ」
もう80歳近いヒデじいさんから発せられた「夢を追え」という言葉は、清々しく響いた。
トラック運転手から酪農家になったヒデじいさんは、生き生きとして、お肌もつやつや。
すくんだ肩の小さな背中には、力がギュッと詰まっている。

C20091017収穫1.JPG C20091027白菜2.JPG
朝晩の寒さにもプチトマトは相変わらず生り、無理と思われた普通トマトは赤く色づいた。
そうこうしているうち、畑にノリおじさんがやって来た。
すれ違いざま、フマールの抱えた野菜を横目にニヤリと笑った。

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